手紙 読了
- 作者: 東野圭吾
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2006/10
- メディア: 文庫
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「容疑者Xの献身」以来、東野圭吾をもう少し読んでみようかと思って手に取ったもの。
両親を失い、貧しい境遇の中で愛する弟を進学させたくてつい、強盗殺人に手を染めてしまった兄をもった弟の苦難。弟、直紀が幸せをつかもうとするたび、「犯罪加害者の弟」という事実が彼の行き先を阻む。
おそらくは社会に厳然と存在する、犯罪加害者の親族に対する逆差別への告発と、逆に、その立場に立った者の被害者意識からの脱却(気づき)とを両側面から描いたもの。そのテーマの格調の高さと問題意識には素直に敬意を示したいところ。
だが率直に言うと、この小説はあまり好きになれない。東野作品に対して僕が繰り返し指摘してきた、紋切り型な人物や、ぺったりと平面的な感情の描写が鼻についてしかたないためだ。また、直紀の振る舞い、感じ方(特にその被害者意識)は、後年彼自身が認めるように「甘い」。読んでいてイライラしてしかたなかった。それを読者に感じさせたまま、感動に導こうとするのは無理がある。
ただ、彼を無条件に愛し受け入れる由実子と、真の意味の親友寺尾については、かなり好感が持てる。ちょっと涙腺にきたところがあるとすれば、彼らが関わっているシーンばかりだった気がする。また、ラストシーンの放つ輝きは、「容疑者Xの献身」同様、かなり強い。東野氏はどうも、こうした余韻を残すラストシーンを考えるのが、うまいのではないか。