飲んだくれの記

方向音痴で熱しやすく冷めやすい、酒とラーメンの大好きなポンコツが綴る徒然の記。

ソヴェト旅行記

ソヴェト旅行記 (岩波文庫)

ソヴェト旅行記 (岩波文庫)

僕がもっとも好きな小説(のひとつ)である「狭き門」、そして「田園交響楽」の二作品ゆえに僕の中で「最高の作家」の称号を得ている一人、アンドレ・ジイドによる今は亡きソヴィエト連邦への旅行記。1936年刊。


ジイドはこの年、ゴーリキー(この翻訳ではゴルキイ)重態の報に接して、彼を見舞いに初めてソヴィエト(この翻訳ではソヴェト)を訪れるが、しかし、到着した彼を迎えたのは、ゴーリキーの訃報であった。その葬儀に出席した後、彼はのちに合流する友人たちとともに一月ほど、ソヴィエト各地を訪れ、そこでソヴィエトの様々な現実に直面する。


ソヴィエト革命こそ人類の理想の実現への第一歩であったと信じていたと思われる、当時のおそらくは典型的な先進的知識人であったジイドが、ソヴィエトで目にした抑圧、没個性ぶりと画一化、貧困の現実を前に、理想と現実との猛烈な心理的葛藤を繰り広げる。言葉を選びつつ、どこまでも真実と理想とのそれぞれに誠実に向き合い、折り合いを付けようととするジイドの姿勢は、大変に誠実で、好感が持てる。それだけに、搾り出された批判の言辞は苦悩とない交ぜになって、痛烈そのものだ。


ゴーリキーの訃報で始まり、親友の不慮の死で終わりを迎えるこの旅のドラマティックさもまた、忘れがたく悲しい印象を残し、それはまるで一遍の小説のよう。


同時代的には、そのソヴィエトに対する批判的言辞から大変な反響を巻き起こしたようだが、今読むとむしろ、なぜそれほどまでにマルクス主義が知識人の関心を席捲したのかが、不思議でならない。もちろんそこには、歴史的な必然があったのだろうが・・・。今後の読書では、そのあたりもトレースできるといいな。