飲んだくれの記

方向音痴で熱しやすく冷めやすい、酒とラーメンの大好きなポンコツが綴る徒然の記。

輝くもの天より墜ち 読了

輝くもの天より墜ち (ハヤカワ文庫SF)

輝くもの天より墜ち (ハヤカワ文庫SF)


やはりこの人の作品は期待を裏切らない。しっかりした構造の、SFミステリー。


本作は、故ジェイムズ・ティプトリー・ジュニアの遺した長編二作のうちのひとつ。もう22年も前の作品だが、このたびようやくこれが翻訳されたということで、一にも二にもなく買ってきた。
しかし今まで読んできたジェイムズ・ティプトリー・ジュニアのすべての作品が短編だったことを改めて思い起こして、びっくりした。いずれも重量級の感動を与えるものばかりであったので。


辺境の惑星ダミエム。そこには翼を持つ美しい妖精のような種族が棲む。彼らダミエム人たちを保護するために連邦から派遣され、駐在しているのは行政官コーリー、その夫キップ、医師バラム。
この惑星に<殺された星>のガス群がもたらす壮麗な眺めを見物するために、10数名の観光客が押し寄せる。
やがて明らかになる過去にヒューマンが犯した恐ろしい犯罪と、観光客たちとの思惑。はじめは牧歌的な雰囲気で始まったこの物語も、満天にオーロラが広がるとともに、驚愕の展開を見せることになる。


優しさと残酷さ、緩慢さとスピード感、美しさと醜さ、要所要所で緩急のつけ方が見事な物語展開。作者の広い経験をうかがわせる人物描写。人生の悲哀に満ちたストーリー。
佳作ではあった。このようにガッカリせずに読める物語に、今は飢えている。