飲んだくれの記

方向音痴で熱しやすく冷めやすい、酒とラーメンの大好きなポンコツが綴る徒然の記。

アガメムノーン 読了

アガメムノーン (岩波文庫)

アガメムノーン (岩波文庫)


ホメロスの「イリアス」に詠われた10年にわたるトロイア戦争。この戦でのギリシア側の総大将、アガメムノーンはトロイアに対して勝利を収めて故国に凱旋した直後、その妻クリュタイメーストラーと、それに情を通じたアガメムノーンの従兄弟、アイギストスとに惨殺される。
これは、「オデュッセイア」にても繰り返し示唆される伝説である。
本作は、紀元前5世紀頃の作家、アイスキュロスによるこの暗殺を描いた劇だ。文庫版の解説によれば、なんでも、現存する世界最古の戦争批判文学であるという。


観客は、この暗殺の伝説に通暁したうえで、この劇を観戦したものらしい。コロスやカッサンドラ、そしてクリュタイメーストラー自身の言葉に、来るべきアガメムノーンの運命が繰り返し暗示され、観る者は、いかにしてそれが実現されるのか、固唾を呑んで見守ることになる。
そのさなかに伝わってくるのは、この劇作家がこめた戦争の空しさや悲惨さへの訴え。勝利の凱旋であるというのに、驚くほどに陰鬱で、悲惨さや、嘆きの感情ばかりが強調される。


非常に分かりやすい展開とドラマチックな悲劇性は、いかにもギリシア悲劇のそれであり、強い感興を誘う。
なおこの岩波書店版の注釈は、過剰なまでに親切で細にわたっており、およそ作者の意図を見失う心配はない。安心して読める作品だ。