読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

飲んだくれの記

方向音痴で熱しやすく冷めやすい、酒とラーメンの大好きなポンコツが綴る徒然の記。

夕凪の街 桜の国 鑑賞

夕凪の街 桜の国
http://www.yunagi-sakura.jp/



昨日ロードショー開始のこの映画、観てきました。鑑賞中はずっと、ハンカチが手離せませんでしたよ・・・。独り自宅で観ていたら、たぶんボロボロ止まらなかったでしょう。


作品は「夕凪の街」と「桜の国」の二部に分かれています。

ひとつは原爆投下から十三年後の広島が舞台。生き延びたことに罪悪感を抱きながら生きる女性・平野皆実(麻生久美子)が、同僚の打越(吉沢悠)から愛を打ち明けられたときに幸せの一方で被爆した心の傷が再び痛みだしていく『夕凪の街』。
もうひとつの時代は現代。ある日、皆実の弟・旭(堺正章)が家族に内緒で東京から広島へと向かい、娘の石川七波(田中麗奈)が彼の後をつけていくうちに、自分の家族のルーツを見つめなおしていく『桜の国』。

ささやかな幸せ、悲しい愛、差別、死別の描写を通じて、反戦反核のメッセージを明確に伝えているのですが、それが声もあげられない、いわば表の歴史から黙殺されてきた人々の姿を通じて淡々と描かれるものですから、押し付けがましさを感じることはまったくありませんでした。描写そのものも、決して奇をてらうことのない、実に品のある抑制の効いたもので、それが却って感情を増幅する効果を出していたように思います。


とにかく皆実役の麻生久美子がハマり役じゃないでしょうか。昭和の香りを感じさせる美しさ、はかなげな様子、抑えた演技、本当に素晴らしかった。おそらく白血病であるのに、あまりにもきれいな死に顔のリアリティはどうなのよというツッコミもありえますが、いや、それはあまりの些事としか思えない。
もう一人の主人公、七波役の田中麗奈の演技もまたよかった。「夕凪の街」で半泣き状態のまま突入した「桜の国」の導入部における、一種の「軽さ」にはどうなることかとハラハラしましたが、しかしその後の展開はシナリオのよさもあって、実に味わい深いもの。「夕凪の街」の回想シーンの効果的な挿入との絡み、そしてラストの七波の表情。
皆実と旭の母親フジミ役の藤村志保も実にうまかったし、総じて俳優のみなさんはいずれも地に足のついたいい演技をしてました。


戦後62年経ってなお、戦争はまだ終わっていない。そんな現実を、しかしかすかな希望とともに示してくれるこの気品ある映画を、僕は一人でも多くの方々に観てもらいたい。特に、若者に。その点、劇場の客の入りの少なさ(3割程度かな)はちょっと残念でした。


そうそう。この映画を観ていて、猛烈に広島に足を運びたくなりました。生まれてこの方、行ったことなかったんですが。
僕は断固たる憲法9条支持者だし、徹底的に反戦主義者です。戦争を必要悪と主張するいかなる議論も僕に対して説得的であったことはないのですが、それはほぼすべてのそうした主張が頭でっかちの理念やプライド(その基点は個人的なもの、国家的なもの、民族的なものと様々ですが)の上に基礎を置いており、常に犠牲になる弱者に対する圧倒的な想像力の欠如を露呈しているようにしか思えなかったからです。自分の親や子、愛する者を殺されてなお、「これは仕方なかったんだ」とうそぶける者以外には、戦争の必要性を語って欲しくない。
ま、そんなことを原爆の日終戦記念日を間近にした今、もう一度考えてみたいなと。


もうひとつこの映画でもっとも印象に残っているのは「ありがと」という広島なまりのセリフでした。何回も何回も、様々な人の口を通じて語られるこの柔らかい言葉に、どんなにか気持ちがやわらいだことか。直接の関係は無いのですが、このイントネーションに小津の「東京物語」を思い出したりもしてました。