飲んだくれの記

方向音痴で熱しやすく冷めやすい、酒とラーメンの大好きなポンコツが綴る徒然の記。

オリュンポス 読了

オリュンポス 上
オリュンポス 下


半年ほど前に読んだ前作「イリアム」とで二部作をなすこの作品。上下巻合わせて1,000ページ以上のこの作品を、ようやく読み切りました。


ここにきて、イリアムで平行して進んできた3つの世界が激しく交錯します。すなわち、
- トロイア戦争の英雄たちとオリュンポスの神々の戦い
- 喪われた時代の文学(シェイクスピアプルースト)をこよなく愛する人間=機械であるモラヴェックの冒険
- タイムマシンのイーロイよろしく退廃的な文明に浸りきった古典的人類を襲う、壊滅的な試練
とが、時空と空間を越えて、その関係性を明らかにしていくのです。
どんでん返しにつぐどんでん返しで盛り上げに盛り上げ、その過程で多くの謎が明かされ、やがていかにもダン・シモンズなラストへと突入します。
ただ、この作品もまた、何を書いてもネタバレしそうなので、うかつなこと、書けません。


しかしながら、率直な感想としては、イリアムがあまりにも面白すぎた分、ちょっと期待しすぎたかな、というところ。
広げまくった大風呂敷のつじつまが最後に来てあってなかったり、謎が謎のまま残ってしまって、やや消化不良気味に感ぜられたり。激しい戦闘シーンや世紀末的な試練などの描写はダン・シモンズならではの迫力に溢れているのに対して、その逆のシチュエーションの描写となると、やたら甘ったるく感じられて、身体がむずがゆくなったり。ポルノまがいの描写にやたら手をかけているのも、ちょっと蛇足な印象があるかな。


とはいえ、やはり風呂敷の広げようは見事で、各所で手に汗握る展開を見せてくれるのはもちろんのことです。
また、あとがきでも訳者の方が熱く、とにかく熱く語られているとおり、様々な文学作品からの本歌取りが凄まじい量で、しかも見事に組み合わされている模様。ここを読み解くのも、興味深いかもしれません。実際、僕の分かる範囲(ホメロスの「イリアス」「オデュッセイア」など)だけでも、その妙味を楽しむことはできます。特にオデュッセウスにまつわるラストは、なるほどこう来たか!と、ハタとヒザをうってしまいました。


誤解を恐れずに言うと、「イリアス」が「ハイペリオン」なのに対して、「オリュンポス」は「ハイペリオンの没落」と言えそうです。これすなわち、
イリアスで盛り上げすぎて、オリュンポスで収束し切れなかったんじゃないか?ということ。また、「エンディミオン」のごとき続編の可能性もあるということ(「オデュッセイア」をモチーフとした続編が出るんじゃないかという気がしてならない)。


登場する様々な文学作品を読んでみたくなるというのも、この作品の特徴かも。僕の場合、このあたりを今後のリストに入れておきたい。


後二者がいかに難物であるかは、重々承知しているつもりだけれども・・・


なんて書きましたが、あくまでも娯楽大作です。娯楽。しかめっ面して読む本じゃありませんよ、念のため。


ちなみに、まだ読んでない方は、「イリアム」「オリュンポス」を読む前に、同じ作者の「ハイペリオン」を読むべきです。SFへの愛とオマージュに溢れた、ありとあらゆる古今のSF要素を詰め込んだ超傑作とは、まさにこのこと。寝食を忘れてSFに耽溺する醍醐味は、「ハイペリオン」にこそ、あるんですから。
ハイペリオン〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)
ハイペリオン〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)