飲んだくれの記

方向音痴で熱しやすく冷めやすい、酒とラーメンの大好きなポンコツが綴る徒然の記。

小津安二郎先生の思い出 読了

小津安二郎先生の思い出 (朝日文庫 り 2-2)

小津安二郎先生の思い出 (朝日文庫 り 2-2)


小津映画に無くてはならない今は亡き名優、笠智衆氏が語る、小津映画、小津監督、そして小津組の仲間たち。


16年前の単行本がこのたび文庫化されたようです。本屋で見かけて、さっそく買って読んでみました。


笠氏の生い立ちから始まって、小津監督とのかかわり、小津映画撮影時の裏話(これが一番面白い)、小津映画で競演した仲間たち*1の思い出、小津監督以外の監督とのかかわり、など、ファンには楽しめる内容を、全編朴訥かつ飄々とした文体で、優しい人柄をにじませながら語っています。
ときどき自虐ネタでノリツッコミしているような箇所も見受けられ、思わずクスリとしてしまいました。


ただ、あとがきをみると分かりますが、実はこの本、編集者によるインタビューの再構成らしいです。これはちょっと残念。どこまでが実際の笠氏の口調に近いものであるのか、この本だけでは分かりません。それでも、口調的に笠氏のそれに近く書かれているのであろうと思いたいところです。


あくまでも俳優・笠智衆の目から見た小津監督ですから、たとえば小津映画独特の演出(構図的な様式美や、ローアングル、etc.)などについて斬新な内容や分析的な視点が述べられているわけではありません。語られていることも、「ああ、やっぱりそうなのね」とどこかで聞いたと思えるような内容であることもたしかです。
それでもなおこの本が面白いのは、やはり笠氏自身が一人の小津映画のファンとして、自身の参加された作品を思い入れをこめて語ってくれているためであると思います。


そうそう。興味深かったのは、小津監督と笠氏との関係性です。笠氏は小津監督を一生涯「先生」と呼んで深く敬愛していた様子。しかしその故なのか、二人の親交度合いは思っていたよりずっと希薄というのか、大人というのか、非常にさっぱりしたものであったように見受けられるのです。世を徹して語るでもなく、激論を交わすわけでもない。あれほど小津映画に出ずっぱりの笠氏にしてこれは、意外でした。
(と書きつつ、小津監督の臨終の際にも立ち会っているし、これを「希薄」と呼ぶのは不適切かも、との思いもあり・・・)


小津ファンにとっての、肩の凝らない読み物として大いにお勧めしたい次第です。

*1:原節子杉村春子岸田今日子佐分利信加藤大介、などなどあげるとキリがないですが