飲んだくれの記

方向音痴で熱しやすく冷めやすい、酒とラーメンの大好きなポンコツが綴る徒然の記。

300アートブック

300アートブック (Shopro world comics)

300アートブック (Shopro world comics)

Amazon.co.jpの商品紹介より:

世界各国で驚愕のオープニング記録を樹立した映画『300<スリーハンドレッド>』。監督のザック・スナイダーによる製作秘話やストーリーボードを中心に700点以上のさまざまなアートワークを収録した完全オフィシャルブック!


買ってきました。映画300(スリーハンドレッド)が好きな人しか絶対に読まないし、欲しがらないであろう、この本。


ストーリーにはほとんど触れずに、映画で用いられた特殊効果や撮影風景、原画などの豊富な写真による解説に徹した本です。
300の、古い写真のようなセピア色の独特の色合い、漫画チックで大仰な人物描写や戦闘シーン、グロテスクな描写(あえて極端に振ることで、むしろコミカル&スタイリッシュな雰囲気を出しているのがこの映画の持ち味)、などなどの演出の秘密がよくわかります。


この本によると、なんとこの映画、ほとんどがスタジオロケかブルースクリーン背景(あとで背景を合成)で撮影されたものらしいのですよ。たしかに幻想的で悪夢の中のような戦場の風景が現実のものでないことは、観ればすぐにわかりますが、それでもちょっとびっくり。すべての映画で同様の演出をやられたらアッという間に食傷気味になろうことは想像に難くありませんが、この作品にはピタリ、はまっています。
また、CGの活用も話題になっている作品ではありますが、予算の関係でしょうか、ペルシア兵の屍を重ねた人石の壁をはじめとして、かなりセット(大道具・小道具)も多用しているのが面白い。ハリウッドものにしては非常な低予算で製作されたとの指摘を、ネットで読んだことがありますが、金をかければヒット作ができるわけではないことも(まぁ、常識ではありますが)、よくわかります。


ここまでの僕の表現から分かると思いますが、この映画が素晴らしいのは、これが現実の史実を描いているからとか、これが自由への賛歌であるとか、そんな(間違った)理由とは対極にあるってことです。
むしろ、笑っちゃうくらいに時代がかった立ち回りや、劇画的構図と表現、神話的悲劇の持つ力を通じて、古臭い肉体信仰や強さへの憧れ、神秘のベースに包まれたスパルタという国家への好奇心とを本能から刺激し、カタルシスへダイレクトに導く点においてこそ、優れている作品であると言えましょう。繰り返し言ってますが、これは、所詮寓話であり、「漫画」であるのです。(ただし、この「漫画」の語は、日本人にはおなじみでありつつも、これまでの多くの映画に欠けていた新しい表現の可能性を最大限に示唆しつつ発されたものであるんですが)。
そこをわきまえた上で、含み笑いをかみ殺しつつも、そのピュアな表現に大いに共感して「最高!」と(または映画内のスパルタ兵のように「Hou,Hou!!!」と)叫んでみせることが求められる、オトナな映画なのです。これは。


間違っても「史実と違うから云々」とか「イスラム圏に対する挑戦」とか見当違いな方向でアタマをせっせと働かせて批評する対象ではないんですわ。そこんとこ、勘違いめされぬよう。