飲んだくれの記

方向音痴で熱しやすく冷めやすい、酒とラーメンの大好きなポンコツが綴る徒然の記。

ひとりっ子 読了

僕の中では現代最高、比肩すべき対象すらない孤高のSF作家、グレッグ・イーガンの日本オリジナル短編集第三弾。


ひとりっ子 (ハヤカワ文庫SF)

ひとりっ子 (ハヤカワ文庫SF)


用いられているSF的ギミックは、これまで長編で馴染んできたものが多い。ナノマシンや数学的理論が現実を凌駕する仕掛け、コンピューターに収められた人格、多世界宇宙論(僕はこれを「宇宙消失」で使われた理屈のバリエーションと思っているのだが)などなど。
しかしいずれの作品にも共通するのは、それらテクノロジーを所与のものとして受け止めつつも、我々とまったく同じ感情や欲求を持つ人間たちがあがき、苦しみ、弄ばれるその生々しさ。それを現代の我々にもすぐそこにある危機として感じさせる筆力にも圧倒させられる(訳者の山岸真先生の苦労たるや凄まじいものに違いないが、しかしそれは十分に報われているのではないか)。


正直、ゴリゴリに筋道立てて説明される理屈の半分だって僕は理解できていないのだが(第一、量子論の理解だって、Newton別冊のレベルがいいところなのだ)、それが彼の小説を愉しむうえでさしたる障害になるとは思えない。以前も書いたが、そこでフォーカスされているのはいつも人間、だからだ。


ますますイーガンが好きになった。